知り合いの話。

彼の祖父はかつて猟師をしていたという。
遊びに行った折に、色々と興味深い話を聞かせてくれた。

彼の祖父「儂みたいに猟を職にしてはいなかったが、鴨撃ちが大層好きな奴がおったよ。鹿とか猪とかには興味示さんかったが、鳥撃ちだけは別じゃった。空に向かって撃つのが好みだったんかの。腕の方は中々なモンでな」

彼の祖父「こいつがある時、おっかしい話をしてたんじゃ。夕時に、一羽で飛んでる鴨を見かけての、早速構えてブッ放したとか。見事命中して、鴨は当然頭から落ちた」

彼の祖父「おかしくなったのは、このすぐ後よ」

彼の祖父は声を低くして話を続ける。

彼の祖父「半ば落ちた辺りで鴨の奴、ククッと身を持ち直したんだと。有り得ねえって目を疑ったが、確かに鴨は元の高さまで戻って羽ばたいてやがる。気を取り直してもう一発撃った。外さねえよう慎重に」

彼の祖父「また当たった。確かに当たった。さっきと同じように鴨が落ちる。だけど、今度も平然と身を立て直しちまった。先ほどとまったく同じように。そんでやっぱり、まんま何事もなかったように飛び続けたってよ。もう意地で撃ちまくったらしい。でも鴨はそのたびに復活果たして飛んで行きやがる。結局撃ち落とすこと叶わんで、夕焼け雲の中に悠然と消えてったそうだ」

ここで祖父さんはガハハと笑った。

彼の祖父「儂も長いこと猟に関わったが、鴨撃ちが鴨に馬鹿にされたって話は、初めてだ」