私が大学生の時、レンタルビデオのお店で働いていました。

そのお店は店長の趣味でホラーやオカルト関係のビデオが多くて、大学の映像研究会とかそんな人たちが持ち込んだ何が映ってるか分からない自主制作ビデオも(無料ですが)置いてくれる少し珍しいお店でした。

お店はそう忙しいわけではなく、昼間の暇な時間には返却されてきたビデオの撒き戻し作業や延滞のチェックをしていたのですが、時々お店に持ち込まれた自主制作映画の検閲みたいなこともやっていました。

その日もいつもと同じようにどこかの大学生のグループが撮影したビデオを見ていたら、妙な視線を感じてきました。

私の後ろは棚になっていて、そこにはこれからチェックしなければいけないビデオが積んでありました。

普通ビデオには◯◯大学映像部というようにパッケージやタイトルに工夫や撮影者の名前が入っているのが普通でしたが、気になった1本にはそのどちらも無く、誰もそれを受け取った覚えが無かったそうです。

そのビデオは誰かの悪戯かもしれないということで、男の店員だけが見ました。
内容は少し変わったホームビデオで、お母さんが撮影しているようなのですが(声が入っていた)、余程下手なのか撮影時間が夜のテーマパークか何からしく、子供の姿がまともに一度も映っていないものでした。

お店にはたまに裏モノやこういったホームビデオが持ち込まれるのですが、お返しすることになっています。
ですからこのビデオはお店の棚には置かれず、倉庫で忘れ物扱いとして保管されることになりました。

ところがそれから倉庫へ商品を取りに行った女の子達が次々倒れるということがありました。
倒れるというと大げさな感じになってしまいますが、具合が悪くなって座り込んでしまうくらいです。

病院に行くと貧血ということなので、女の子ならよくある症状だということで皆気にしていない感じでした。

しばらくして、お店に来た女性のお客様も時々倒れるようになりました。
前述の通り、しゃがみ込んでしまう程度なのですが、店内で体調を崩される方が多かったのです。
そしてお店の中が段々寒くなっていきました。
どんなに厚着をしても寒く、暖房を入れても寒いのです。

そんな時、やはり貧血で倒れた女性のお客様から「あの男の子はどうしましたか?」と訪ねられました。

彼女は倒れる直前に小さな男の子にスカートを引かれ何か声をかけられたのだそうです。

それはとてもおかしいのです。
その時お店の中にいたお客さんに小さなお子さんがいらっしゃるような方はいませんでしたし、時間はもう深夜に近く、お店は子供が一人で遊びにくるような場所でもないからです。

ですが、そんなことは何度も起きてしまったようで、深夜になるとその子はお店の中をうろうろしているらしいのです。

成人男性専用のブースの中に居てお客様から注意を受けたこともありますが、防犯カメラをいくら確認してもそんな子供は存在していません。

そのうち店員の数名が本格的に体調を崩してしまいました。

心配して電話をしてみると、幽霊の出るお店では働けない・・・というずる休みでした。

私もできれば休みたいとは思いましたが、割りの良いバイトだったのでついつい辞め時を逃していました。

この頃は棚の商品が勝手に落ちたり、照明が消えたり、お客様も店員も減り、とても営業が続けられないような状態になっていました。

そんな時にやってきたのがSさんという女の子でした。
彼女は倉庫に入るなりあのビデオテープに目をつけました。
Sさんはそのビデオテープの爪を折り、それから貸し出し用のバーコードを貼って欲しいと言いました。

店内を歩き回ると3日後にまた来ると言って、いくつかの指示をして帰っていってしまいました。

Sさんの容姿はとても普通でしたが、二度目に来店した時、私は声を出してしまいそうになるのを堪えるのに必死でした。

この日お店は休業日で、エスさんの為だけに営業をしていました。
時間は2時少し前だと思います。

Sさんはお店の前で突然手首を切りました。
内側ではなくて外側で、銀色のナイフのようなものでした。

ですが私達は事前にSさんからの指示で声を出してはいけないと言われていたので、黙ってガクガク震えていました。

お店には入り口が二箇所あるのですが、Sさんは右の扉から入って、壁伝いにゆっくり歩いていきます。
倉庫へも入っていきます。

3日前とほとんど同じ道順で、成人男性コーナーにも躊躇い無く入っていきました。
そして一筆書きをするように店内をグルグルと歩き回る内、彼女の後ろに黒い小さな影がチラチラと見えるようになりました。

最初にSさんが来た日、「カウンターの中はセーフゾーンにしておくので何かあったらそこへ逃げ込むように」と言われていましたが、私達は最初からずっとここでバイト仲間と店長と3人で窮屈にくっつきあっていました。

エスさんが近づいてきます。
血のついていない方の手にビデオを持っていました。
あのホームビデオのようなものです。
これもSさんの指示で店頭に並べておきました。

Sさんは店長に会員カードを差し出して、普通の貸し出し手続きをしていました。
私はそれまで子供の幽霊を見たことがありませんでしたが、その時はとてもはっきり見えました。

男の子はSさんの手から滴る血を舐めながら、彼女の腕にしがみついています。
私が見ていることなど気付かないくらい傷口に夢中でそこから少しでも血をかきだそうとでもしてるみたいで、時々指を傷口に突っ込むような仕草をしていましたが、Sさんは少し痛そうにしているだけで冷静な様子です。

手続きが終わり、彼女が出口に近寄ると男の子は彼女から離れようとしたのですが、彼女は男の子の手を握り、そのまま入ってきたのとは別のドアから出て行きました。

男の子は何か叫び声を上げているような感じでしたが、私には何も聞こえませんでした。

入り口近くの棚の商品が全部落ちましたが、被害はその程度でした。

好奇心に勝てず、二人?が出て行ったドアに駆け寄ると、彼女の自転車の荷台に少年が座らされ、本当に何事も無かったかのように自転車が駐車場を出て行きました。

それからは男の子の幽霊を見る人も居なくなり、女の子達の貧血も治っていきましたが、Sさんとはその後、ぱったりと連絡が途絶えています。

本当に怖い体験でしたので、もうあまり語りたくないです。