とある友人に聞いた話。

「俺の携帯、よくなくなるんだ」

友人の家を久しぶりに訪ねたとき、不思議な話はないか?と問うと、彼はそう言った。

私:「それは不思議な話なのか?」

私だって、自分の携帯がどこに行ったのかわからなくなることはしょっちゅうだ。
しかし、彼はそうではないと言う。

友人:「なくなり方が、なんだかおかしいんだ。こいつ、多分俺に隠れて旅をしてるんだよ」

友人は、ガラケーとスマホを一台ずつ所有しているが、旅をするのはガラケーの方だという。

普段使いしているのはスマホの方で、ガラケーは半ば、リビングの定位置に鎮座する置物と化している。
動かすことはほとんどないのに、なぜか時々なくなってしまう。

あちこち探すが、心当たりがないため見つからない。
どうしたものかと思っていると、二、三日後に思わぬところから着信音がして居所が知れる。
それがいつものパターンだそうだ。

友人:「だから最近は、なくなっても慌てないんだ。しばらくしたら出て来るってわかったからな」

見つかるのは、台所の戸棚の奥や、階段下の暗がり、洗面所下の収納の中、友人の職場のデスクの中にあったこともあり、意図的に隠したか隠れたかしなければありえない場所ばかりだという。

私:「しかし、なんでそんな携帯まだ持ってるんだ。新しいのあるんだから、さっさと解約して処分すればいいじゃないか」

私は当然のようにそう指摘した。

友人:「そうなんだけどさ・・・」と言いながら、友人はリビングの写真の前に携帯電話を置く。
そこが定位置のようだ。

友人:「時々、電話が掛かって来るからなぁ」
私:「スマホの番号を教えれば済む話じゃない」

友人:「それがさ、向こうからは掛かってくるばかりで、話をする前にいつも切られるんだ。俺からは掛けられないし」
私:「はぁ?」

何を言っているんだと首を傾げた私に、友人はいたずらっぽく笑って言った。

友人;「あのガラケーに掛けてくるのは、嫁なんだ。ついでに、もう解約はしてる。さすがにもったいないからな」

私は二の句が継げず、黙り込んだ。
三年前に亡くなった奥方がフレームの中で微笑む隣で、携帯電話は静かに鎮座していた。