人間、気が付かないって言うのはホントに幸せなことで・・・。

学生時代、大学の近くの一軒家を借りてそこに住んでいた。

その一軒家は母屋が2階建てで1階と渡り廊下で繋がっている離れがあった。
だいたい敷地面積はだいたい60坪くらいの一軒家。

僕はその離れを個人部屋にした。
母屋の各部屋は倉庫代わりにした。
母屋に用があると言ったら炊事、入浴、用足しくらいだった。

入居当日、僕は台所に貼ってあった大きなお札を邪魔に思い剥がしてしまった。
それから妙なことが続いた・・・。

夜になると、母屋の階段を「タンタンタンタン・・・」と2階へ昇っていく足音が聞こえるようになった。

その家には離れの部屋に僕しか住んでいないのに・・・。

また、母屋から渡り廊下を「ペタ、ペタ、ペタ・・・」と、僕の部屋になっている離れに誰かが近づいてくる足音。
そして離れの僕の部屋の扉を「トントン」とノックする音が聞こえたりもした。

僕はてっきり友達が遊びに来たんだと思い、「はぁ~い!入って来いよ」と返事をしたこともあった。

あと、離れの部屋の外の庭を「ジャリ、ジャリ、ジャリ・・・」と歩く足音を聞いたり、離れの自分の部屋に引いている電話に雑音が入り出したり、留守電のテープの中に女の人の声で「・・・ふふ・・・」って言う笑い声だけが入っているのがあったり、庭から離れの僕の部屋の窓を「ゴリゴリッゴリゴリッ」と無理矢理こじ開けようとする音が聞こえたりした。

また、その離れの部屋で寝ていると、金縛りにあって、胸のあたりを押しつけられているような感覚に襲われ、あまりに苦しいので目が覚めると、寝汗がびっしょりなんてこともあった。

この金縛りだけは頻繁に遭い、胸を押さえつけられるバージョンと、両足首を捕まれるバージョンの2種類があった。

ここまでパーフェクトに心霊現象を経験しているにも関わらず、僕は全くこれらの現象を心霊現象だと気付かず、卒業までその一軒家に普通に住み続けた。
別に僕が剛胆だとか勇気があるとかそういう話ではない。
どちらかというとかなりヘタレな方だ。

例えば、階段を上がって行く足音が聞こえた時は、「この家のお隣さんの階段の音が聞こえたんだろう」と思っていたし、母屋から離れの廊下へ近寄ってきて、ドアをノックした音は「友達の誰かがいたずらしたんだろう」と思っていた。
庭を歩く音が聞こえたのは「野良犬が入り込んできたんだろう」とも思っていたし、部屋の窓を開こうとする音は「猫がさかりついてるんだな?」くらいに思っていた。

金縛りあって、胸を押さえつけられて苦しかった時は「人間、タバコを吸い過ぎるとこんな風になるんだな」と思っていた。
足首を捕まれた時は「最近、運動不足だしなぁ、足首って凝るとこんな感覚になるんだー、まるで誰かに足首を捕まれているみたいだなー」と思っていた。

電話の雑音が入った時は、NTTのサービスマンを呼んで点検して下さいって言ったし(当然なんの故障もなかった)
女の人の声で笑い声が聞こえたのは、ただのいたずら電話だと本気で思っていた。

僕があれは心霊現象だったんだ、と気付いたのは卒業してその一軒家を引き払った後のこと。

仲の良い一年下の後輩が、僕の次にその離れの部屋に入居した。
2月に僕の卒業式が終わって、4月に僕は入社し、5月のGWにその後輩の所に遊びに行ったら、後輩が涙目で僕が4年間経験し続けた、上記したような現象がほぼ毎晩起こる旨を僕に訴えた。

後輩「夜、階段を上っていく音が聞こえるんすよ」

自分「あぁ、お隣さんの階段の音だろ?」

後輩「お隣さんの家って平屋っすよ?」

自分「・・・」

後輩「夜、庭を歩く音がするんすよ?」

自分「犬が入り込んできてるんだろ?」

後輩「2本足の足音でしたよ?」

自分「・・・」

後輩「金縛り状態になって、胸や足首を押さえつけられたりするんすよ」

自分「タバコ吸い過ぎ、あと運動不足」

後輩「自分、タバコ吸わないんすけど?」

自分「・・・」

後輩「あと、夜になると母屋からここまで足音が聞こえてきて、この部屋の扉をノックする音が聞こえるんすよ」

自分「だれかにいたずらだろ?」

後輩「母屋の玄関、鍵閉まってるんすよ?」

自分「・・・」

今思えば、ブルブルもん。
どうして気付かずに4年間も平気であの一軒家に住めたんだろう?
今思えば、家賃が1ヶ月で1万円だった時点でおかしいと思うはずなのに・・・。

ちなみに後輩はすぐに他のアパートに引っ越しました。

その時、お札を剥がしたことは言いませんでした。
つーか忘れてました。

みなさん、お札は剥がしてはいけませんよ・・・。