友人の話。

釣り仲間と二人で、沢釣りに出かけた。
いつもとは違う場所で釣ってみようと散策しているうち、良い感じの淵が見つかった。
あまり人の来ない場所なのか、入れ食いのように釣れたそうだ。

夢中になって竿を振っていると、急に手応えが重くなった。
根掛りでもしたかと思ったが、力を入れるとゆっくり引き戻ってくる。
高い竿を折っては面白くない。
竿を下ろして手でラインを引っ張り、回収することにした。

しばらくそのまま引っ張り続けていたが、段々気味が悪くなってきた。
こんなに長く糸を送ってはいない筈だけど。
しかし糸は延々と淵の奥方から引き出されてくる。
憑かれたように、彼は糸を引き続けた。

いきなり連れが大声を掛けてきた。

「お前、何を引き摺り出してるんだ!?」

ハッとして手元を見ると、手の中にあったのは、5ミリ程もある太い何かだった。
明らかに釣り糸ではない。黒くて僅かに弾力を感じる。
連れに指摘されるまで、彼はラインがどんどん太くなっていることに気が付いていなかったらしい。

慌てて手の中の物を放り出す。

次の瞬間、足元に積み上がっていた太い紐が、凄い勢いで水中に引き戻された。

ラインはあっという間に淵の中へ姿を消し、置いていた竿も没して見えなくなる。

しばらく二人で呆然と水面を見やっていたが、やがてぷかりと、彼の竿だけが浮かび上がってきた。
恐る恐る引き寄せてみると、糸は切られていてほとんど残っていなかった。

「・・・お前、何かに釣られかけたんじゃないか?」

連れが渋い顔をして聞いてきたが、答えようもない。
すぐにその場から撤退したのだという。

以来、その淵の近くには寄らないように注意しているのだそうだ。