友人の話。

渓流へ鮎釣りに出掛けた時のこと。
地元の漁協で囮用の生き鮎を買ってから、沢に下りた。
鮎を囮缶に入れ、その内からまず一匹を仕掛けの鼻管にセットし、友釣りに入る。
始めるや否や、入れ食いの状態になったという。

狙ったポイントに友鮎を向ければ、すぐに活きの良いのが引っ掛かる。
形といい大きさといい、これまで味わったことがないほどの釣果だ。

良い気分で竿を振っている内、突然フッと手が軽くなった。
友鮎がバレでもしたかなと、仕掛けを手元に引きよせてみる。
その先にぶら下がっていたのは、頭だけになった友鮎だった。

鰓から下は、切り取られでもしたかのように、すっぱりと失くなっている。
少々不気味に思いながら、次の友鮎を取り出そうと囮缶に手を伸ばした。
囮缶の中には、生きた鮎は一匹も残っていなかった。
皆、先と同じように、頭から下を綺麗に食い千切られている。
馬鹿な、あれだけ沢山釣ったのに!?

慌てて缶の中を改めた。
中にあったのは、ちょうど彼が購入した数より一つ少ない、魚の頭。
鼻管に下がっている分を加えると、数がピタリと一致する。

・・・やられた、化かされた・・・。

爆釣してるように惑わされて、その間に友鮎を全部喰われちまった。
その時程がっかりした出来事は、これまでの人生で体験しなかったという。

しばらく後に、顔見知りの釣り仲間にこの話をしてみた。

「◯◯岩の下に行ったンか。そりゃ場所が悪い。あっこには鮎狐ってのががいて、魚はそれこそ根こそぎ盗まれんだヨ。頭だけ残してくってのが、また小馬鹿にしてるよな」

そう聞かされて、再びがっくり来たのだそうだ。