怖くも何ともない話なんだがちと不可解なことがあったので。

仕事がちと忙しくてこの間の日曜から月曜、火曜から水曜と徹夜仕事をしてたんだ。
現場は森と畑が隣接した場所で、森をほんの少し切り開いたところに太陽光発電所を作ってた。

森と畑の境界に何とか車がすれ違えるくらいの道があって、その道に対して畑の真ん中をつっ来た道がぶつかってT字路になってる。
そのT字路の部分に現場に入る私道、もともとは森の奥に行く管理用の道路らしい舗装もされてない道がぶつかって十字路になってるような感じ。

一応現場から200m程度離れた所に民家も一軒あるんだけど畑の中という立地上、周辺には外灯の一つもなく夜になるととにかく真っ暗。
そんな中、ヘッドライトを付けて現場入口の電柱に電線の固定やら何やら作業をやっていた夜中の3時頃のこと。

不意に足音が聞こえたんだ。

時間帯も場所もあいまってすごく静かだった空間にやたらと響いたんで視線を横に向けると畑の中の道をこちらに向かってゆっくり歩いてる人影が一つ。
40~50m程度は離れてたしヘッドライトの光量じゃ真黒な影にしか見えなかったんだけど、最初は近所の老人が散歩でもしてるのかって思った。

でも近くに家なんか一軒しかないし、外灯もなくて足元もろくに見えない闇の中、そいつは懐中電灯の一つも持ってなかった。
何より、不意に足音が響いて見たからその人影に気付いたんだけどそいつは一体どこからきたんだ?

足音がして見た時には畑の真ん中の道にそいつはいたんだ。
単に足音に気付かなかったんだろう、なんてことは絶対にない。
本当に突然、そいつはそこに現れたんだって、そうとしか思えない状況だった。

ひょっとして見ちゃいけないものを見てるのかな・・・。
なんて思ったけど仕事に追われてたから2、3度ちらちら見たけど後は極力無視して仕事をしていた。

まあ電柱の作業はほとんど終わりだったのですぐに終わらせて、道の方に出てみたんだ。
さっきそいつがいた道には誰もいない。
左右に伸びる道を見ても誰もいなかった。

数100m先の道路にある外灯と月灯り、そう遠くまでは照らせないヘッドライトのか細い光量でしか見てないけど、人影があったとして分からないほどではなかった。
見通しもよくて姿を隠せるわけもない。
ちらっと見た時のゆっくりした動きから、電柱から降りて確認しに行くまでの短い時間にいなくなることなんか不可能だった。

それに、これは後で考えて思ったことなんだけど・・・あれだけ響いた足音が途中から全く聞こえていなかったように思える。

ただそれだけのことで、朝を迎えるまでの間に何かあったわけでもない。
だけど夜が明けてから応援にきてくれてる元請の若い職人にこの話をしたところ、霊能力のある友人がこの間電話をかけてきて「今どんな現場に入ってるのか?」と先日聞かれたと話してくれた。

「何かよくない場所だと思う、体調が悪くなったりしてないか?」などと聞かれたらしいのだが、特別そういったことはなかった。
強いて言えばうちの職人が鼻がひどくなってたがあれはおそらく花粉症だろう。

だがもう一つ職人が話してくれたこと。
現場の入口脇にある小さなプレハブ小屋の話が気になった。

現場は道路から私道に入ってほんの10m程度入った所にあったけどその手前側に小さなプレハブ小屋があった。
ボロボロで物置か何かだろう程度にしか思ってなかったんだけど話によるとそこには人が住んでいたらしく、近づいて見てみると確かにそんな痕跡はあった。

窓も壁も壊れてボロボロだけどテレビと棚と小さなソファ、それだけでいっぱいの6畳あるかどうかの小さな小屋。
キッチンも風呂も何もない、どういう生活をしていたのかは分からないけど確かに人が住んでいただろう小屋。
誰かがくつろぎ空間として使っていただけかも知れないけどそれにしては気になる点が一つ。

「火伏般若」「魔除仁王」

・・・そんな文字とそれぞれ般若、仁王の絵が描かれた2枚の御札。
まあ火難除けと災い除けの御札だろうけど、住居でなければそんなものを貼ったりはしないんじゃないかなって思う。
で、そこに住んでいた住人がどうやら行方不明らしい。

小耳にはさんだ話で詳しくは知らないようだけどね。
それを聞いてさ、ひょっとしてあの夜中の人影はその住人が帰ってきたんじゃないか、なんて考えたりした。

まあこの話も先の霊能力のある友達の話にしろ、若い職人の冗談なのかも知れないけど。
さらに翌日の徹夜仕事の最中にも謎の発光現象や音がしたりもあってさ。
自分としては初の霊体験なのかなと