俺は小さい頃からすごくリアルな夢を見る。
物の色や匂い、細部まで鮮明で、BGMが付いてくることもある。

昼間、その情報量の多い夢の内容をふと思い出して悶々とすることはよくある。
そんな俺が最近見た夢の話。

俺の父方の祖母とはここ二三年会ってなかった。
どうしてかというと、俺の父と叔父さんとの兄弟仲がすごく悪くて、よく揉め事があり、祖父を亡くした祖母は弟夫婦の家で世話になってたからだった。

二人息子が絶縁状態であることに祖母は酷く悲しんでいたのを、幼いながら覚えている。
俺はおばあちゃんっ子で幼稚園の頃はよく祖父母の家に一人で泊まりに行ってた。
だから祖母と長く会えないことに、なんとなく寂しさは覚えていた。

そんなある日、俺は祖母の夢を見た。
俺と俺の家族、弟夫婦と祖母が山と広い広い花畑に囲まれた日本風の古い平屋に、旅行に行く内容だった。

夢の中の景色は淡く、水彩画のような鮮やかさで、日が気持ち良く照ってて花畑は淡い黄色とピンクがいっぱいだった。
目を凝らしても平屋以外の建物は何も見えないほどのど田舎だった。
花畑は背が高く、俺の目の高さよりも高かった気がする。

俺たちはみんなスーツケースを持ってその平屋に入っていった。
昔から腰の悪いばあちゃんを気遣って、俺は玄関の段差でばあちゃんに声をかけた。
平屋内は小綺麗で畳の匂いがして、俺は気持ちよくなって、入ってすぐの部屋で横になった。

日差しが心地よくて、目を瞑りかけた時、外から誰かが怒鳴る声がした。
驚いて外に出ると、弟夫婦や俺の母さんが玄関先で花畑に向かって叫んでる。
見ると、花畑の中、腰の悪いはずのばあちゃんが大笑いしながら走り回っていた。

それを父と叔父さんが追いかけていた。
ばあちゃんは嬉々として歯を見せながら笑って、まるで子供のように走ってて、広い広い花畑の中、隠れたり消えたりを繰り返してた。

追いかける二人はその速度について行けなくて、転けて土まみれになっていた。
俺は目を凝らしながら、唖然としていた。

花畑はどこまでも続いてて、早くばあちゃんを捕まえないと、どこまでも走って行ってしまいそうだった。
叔父たちは焦って叫んで、パニックになっているのに、日の光は穏やかで、花畑も風になびいていた。

きづいたら、ばあちゃんの姿が赤いべべを着たおかっぱの小さな女の子の姿に変わっていた。
相変わらずとても楽しそうに、あはははと笑いながら走り回っていた。

やがてみんなは諦めて、口々にもう放っておこう、触れないほうがいいと話して、家の中に入っていった。
捕まえないとと躍起になっていたのに、気づいたら腫れ物に触るような、嫌悪の目で花畑を駆け回るものを見ていた。

そしてもう家の中には入れてはいけないと玄関を施錠した。
夢の視点は俺から離れて、ゆっくりと日の当たる花畑を俯瞰していた。
平屋の前に広がる花畑が恐ろしいほどに広くて、そこを駆け回る小さいばあちゃんはもう永遠に平屋には戻れないと感じた。

そして、耳元で幼い子供が通りゃんせを歌うのを感じた。
花畑の中埋もれて見えなくなったばあちゃんの笑い声が異様に響いていた。

俺は目が覚めて夢の内容を思い出し、なぜかぞっとした。
ばあちゃんが帰ってこれないと感じたことよりも、みんなが、そして会いたがっていた俺でさえも、夢の中ではばあちゃんに恐怖感や嫌悪感を覚えていたからだった。

数日後、出張から帰った父にばあちゃんの近況を知っているかなんとなく探りを入れてみた。
ばあちゃんは兄弟が絶縁関係になってから、急にボケが進行してしまっていたそうだった。
父も詳しいことは分かっていないようだったが、父知る限りのばあちゃんは、俺が数年会いたいと思っていたばあちゃんと大きく違っていた。

俺はまたなんとなくぞっとした。

ばあちゃんの認知症は要介護も高く、施設に入っているそうだとと父は話した。
弟に連絡は取れないが、ちょうど最近入居してる施設が分かったから直接行こうと思っていたこと、でもこの間施設に電話したら今は会えない状態だと言われたことを父は付け足した。

俺が父にとってかなりタイムリーなことを尋ねたので、父は驚いたように苦笑いして、お前はおばあちゃんっ子だったもんなぁと言った。
俺はなんとなく、ばあちゃんと会えない理由が分かる気がしてる。