8年振りくらいに旧友と偶然会って話をしてそれで思い出した事があるんだ。

昔小学生の頃は悪ガキだった3人でつるんでよく悪さして先生に怒られてたよ。
まぁ本題に入るわけだが当時確か小5だったかな。

ビールの王冠を金槌で潰して平ぺったくしてからふちをギザギザ(斜め)にカットするんだ。
そうやって簡易手裏剣を作って投げて遊んでたんだ。

当然大人に見つかれば怒られて没収されるが、俺たちは懲りずにばれないように遊んでた。
人や動物には向けなかったがねその時までは・・・。

旧友2人をNとHとする。
Nとは家が近く、まぁHもそう遠いわけではなかったからよく遊んでたんだ。

当時は門限が厳しくて学校終わりじゃ5時までしか遊べなかったから土曜日(半日授業の日に終わってから山へ遊びに行くことにしたんだ。

一旦各自家に帰ってランドセルを置いてから自転車で集まって出発した。
山は城の跡地で夏場はカブトムシやクワガタなんかがよく採れた。

最初は木に向かって手裏剣を投げて無くすなよーなんていいながら遊んでたんだが、途中から探検しようぜってなった。

子どもは好奇心旺盛なんだよw
探検とか秘密基地とかワクワクするだろ?

んで普段行った事がないような道とも思えないが、行けそうってところに入ってどんどん進んで行ったんだ。

一人じゃ多分ビビッて行けなかったろうが、3人だったからなんか安心感があったんだと思う。
でもそれが間違いだった。

俺だけがナップサックに懐中電灯を持ってきていたから俺が先頭、次にN、最後がHって順で歩いてたんだ。

蜘蛛の巣に引っかかるのが嫌で拾った棒を振り回しながら歩いた。
ふと物音がした草木をかきわけるような音だった。
風によるものではなく、動物だろうと思った。

田舎なんで猫や狸、鼬は勿論、熊サイズの猪すら出るので俺たちは歩きを止めて注意深く音の方に目を凝らした。

ガサガサと遠ざかっていって俺たちは安堵した。
「なんだったんだろうなwでも逃げていったなら心配ないなー」なんて言って笑っていた。

その直後、おそらく逃げて行ったであろう動物のけたたましい鳴き声がした。
実際泣き声というよりも悲鳴だと思うが、とても表現しきれない。
3人とも笑っていたのが一瞬で萎縮してしまい皆顔面蒼白だったのを覚えている。
嫌な汗をかいていた。

Nが「なんかに襲われたんじゃないか?」と言った。
俺は「多分そうかも・・・」と頷いた。
俺たちは完全に動けないでいた。

NもHも逃げ出したい気持ちだっただろうが、下手に音を立てたら次は俺たちが襲われると思っていたんだろう。
逃げたとしてもこの山の中、小学生が動物よりも早く走れるとは思えなかったから
特に肥満気味のHはどう足掻いても無理だろう。
だがそれでも逃げるべきだったのかも知れない奴には俺たちの事がバレていやがった。

当時は何故ばれたのかと思っていた。
今からして思えば動物が何かから逃げてきたのであればその方向に何かが居ると察しがつきそうなものだ。

ものすごい勢いで何かがこちらに迫ってくる音がした。

俺たちは叫びながら3人ともダッシュできた道を駆け出した。
だがすぐに追いつかれてしまった。
Hだ案の定真っ先に追いつかれた。

そいつは汚らしい格好をした婆だった。
ホームレスなのだろうか。

当時はそんな言葉も知らなかったから山姥と後に呼んでいた。
伸びきった長い髪にボロボロの服、印象的なのは長く黄ばんだ爪だった。
その手でHの髪を掴んでいた。

Hは尻餅をつきながら「痛い助けて」を繰り返していた。

Hの叫びで足を止めた俺とNだったが山姥の姿を見た瞬間、体中の鳥肌がたってちびりそうになった。
Hが捕まっている今なら逃げられるかも知れないと思ったと同時に友達を見捨てられないとも思った。

俺は後者を選んだ。

聞こえはいいが多分、自分が無事に助かっても親や先生にも事情を説明すれば怒られるってのが怖かったんだと思う。
情けないが毎日些細な事で殴られたり蹴られたりが当たり前だったんだ。

俺はNに「誰か呼んでこい」と怒鳴った。
Nはポカーンとしてこちらを見ていたので再度「早くいけ」と怒鳴った。

3人で戦おうというよりNだけでも逃がしたかったのか、大人が来てくれればなんとかなると思ったのかわからないが・・・。

俺は山姥の目に懐中電灯を向けて山姥が怯んだ好きにNに懐中電灯を投げて渡した
Nは受け取って駆け出した。
当然山姥はブチギレてHを放し俺に向かってきた。
だが俺も無策ではなかった。
必死に悪あがきをしてやった。

土を握り山姥の顔面にお見舞いしてやった。
視界を奪われた山姥にそのままタックルをかましてやった。

当時小柄だった俺の助走もないタックルではふっとばないにせよ、よろけて転倒させる事は出来た。
その隙にHにかけよって声をかけた。

俺「大丈夫か?」
H「ああ・・・ああ」

声にならないような言葉を発しているHの両肩を思いっきり叩いた。

バシーンと俺の手も痛くなる程の力で叩いてやったらHは少し正気を取り戻したようで自力で立ち上がる事が出来た。

顔の土を払った山姥もほぼ同時に立ち上がってこちらに向かってきた。
俺はかわせず捕まった。

山姥「このがきゃあああ」

そう叫びながら俺の首を絞めてきた。
爪が首に食い込んで痛みで山姥よりも死への恐怖が勝った。

俺はとっさにポケットにしまっていた手裏剣で山姥の左腕を切りつけた。

「いでえああああ」

そう言いながら山姥は俺から手を放し傷口を押さえていた。
当然だカッターで切りつけられたのと同等だからだ。

無我夢中だったので俺の指も切れていたが、そんな事はどうでもよかった。

近所の酒屋から拝借した王冠手裏剣は無くしてもいいように何枚も持っていたのでそれを山姥目掛けて投げつけた。

至近距離だと言うのに我武者羅に投げては中々当たらなかったが、それでも山姥の額に刺さった。

俺が投げたものなのかHが投げたものなのか後に俺のだ俺のだと言いあったものだが、山姥はたまらず木の影に隠れようとした。

俺たちは追いかけて手裏剣を投げつけた。
護身用に数枚残しHに「逃げるぞ」と言って駆け出した。

また捕まってはたまらないとHを先に行かせ後ろを確認しながら俺がその後を追った。

もう手裏剣がなくなったと思った山姥があとから追いかけてくる。
だがお互い人間同士、スタートに差がある分すぐには追いつかれなかった。

途中で手裏剣を投げつけ山姥を怯ませ距離を取ったがそれで俺の手裏剣は使い切ってしまった。

あとで聞いたらHも最初に全て投げ切ってしまっていたらしい。

Hも今にもゲロはきそうになりながらも走っていたが、とうとう追いつかれてしまった。

登りならもっと早く追いつかれていただろうが、俺たちは2人まとめて倒された。

その時Hが上になり変な形で圧し掛かって来たため俺は右足を捻挫した。
よくヒビが入ったり骨折しなかったと思うが、数ヶ月松葉杖生活を余儀なくされた。

俺は全く身動きが取れなくなってしまったところに山姥が圧し掛かってきた。
頭を何度も地面に叩きつけられ殺されると思った。
今度はHが体当たりをかまし山姥を吹っ飛ばした。

小柄な俺と違い、肥満小学生のタックルではかなり吹っ飛んだ。
今度は標的を俺からHに変更し山姥がHの首をつかみにかかった辺りだった。

「おーい」と声が聞こえた。

俺は山姥に好き放題されて聞こえていなかったらしいが、Hはその声が聞こえたから自分を奮い立たせタックル出来たのだと言っていた。
俺たちは走って逃げているうちに普通の山道まで戻ってきていたのだ。

「ここです!こっちです!」と俺たちは叫んだ。

数分もしないうちに息切れした大人が2人やってきた。

多分近くに住む人だろうNが助けを求めてくれたのだ。
大人たちは山姥を見るなり「ヒッ」と悲鳴をあげたが、この惨状をみて山姥に殴りかかった。

老婆が成人男性2人に勝てるわけもなくあっさりとねじ伏せられた。
山姥を取り押さえている間、山姥はこちらを睨み付け「ガキどもー殺してやる」等と叫んでいた。

あの顔は今でも忘れない。

大人たちは山姥を押さえつけながら「大丈夫か?怪我したのか?」と聞いてくるが、俺も自分の状態がよくわかっていなかったので「動けない痛い」とだけ言い、大人たち「もう少し待ってろ、今うちのカミさんが他の男達に声をかけてる、直にくるはずだ、もう一人の子は家で婆さんが見てくれてる」と言った。

Nも無事なんだ俺たちも助かったんだ・・・と安心したのか俺はそこから記憶がない。

起きたら病院にいた。
足にはギプスが巻かれベッドの上に居た。
母親が泣いて抱きついてきた。

父親には殴られたが、生きてて良かったと言ってくれた。
普段殺すレベルで殴ったり蹴ってる奴が何を言ってるんだと思った。

その日は先生にお礼と怪我の説明を受け帰宅した。
後日学校に警察がきて俺たち3人は担任、校長、教頭を含め話をした。

大まかな事は助けてくれた大人たちから聞いていたようだ。
山姥はホームレスではなく、近くに住む老婆だったようだ。

何年か前爺さんを亡くしてから挙動がおかしく、おそらく痴呆だったのではないかと言っていた。

今は捕まって話を聞いていると言っていた。
俺たちはもう関わりたくなかったので山へは行かないと約束をした。
助けてくれた大人たちへは後日お礼に行った。

あとはありきたりなやり取りや怪我が治るまで不自由な生活をしていたくらいなのでここらで割愛する。

あれから20年経っているが、未だにあそこへは近づいていない。
今もまだ山姥は生きているのだろうか。

台詞等は殆どすぽ抜けているし、うろ覚えなので正確ではないだろうけど、大体そんな感じ。

子どもながらに衝撃的でこの事件のあと俺たちは少し悪さを控えるようになった。

大した話じゃなくてすまん。
ただ当事者(小学生)にとってはとんでもない恐怖体験だったんだ。