その話を聞いたのは小学生三年生の頃だった。

ある生徒の自宅が火事になり、死人が出た。
たぶん生徒の祖母だったと思うが、同級生でもなく、顔も知らなかったので噂話で終わったが、半焼した家が通学路にあった。

半焼した家はなぜか一年以上放置されていて、自分が五年生の頃、その家に関するある怪談話を耳にした。

隣のクラスのお調子者が、その廃墟に無断で入って、奇妙な体験をしたという話だった。
そのお調子者のAは四年生の時に転校して既にいなかったが、Aの話は一年後も語られることになった。

Aは半焼した家に悪ガキ仲間と上がり込み、トイレだか風呂場だかで人形を見つけたらしい。

ビニールの古いキューピー人形。
それは片腕がないだけで、これといった特徴はなかったがAだけが目撃した。

片腕の人形を見たAが転校したことで、人形の話が独り歩きした感じになった。

中学生になった時もなぜか人形の噂話を聞いた。

ある女の子が公園のトイレで変質者に襲われ、しばらくトイレが使用禁止になった。

その後トイレが使えるようになったが、なぜかその身障者用トイレに片腕のキューピー人形があったらしい。
自分が直接見聞きした話ではなく、あくまで噂話だったが、片腕の人形のイメージだけが記憶に残った。

そして三年後。
高校生になった時、夏休みに友人三人とキャンプに行った。

海水浴場にあるキャンプ場で、泳いだり、カレーを作ったり、花火をやったりで、何事もなく二泊して過ごした。

自転車で帰る途中、路肩のガードレールに缶ジュースや干からびた花束が目に入った。

ちょっと気になったが、コンビニで休憩した時、誰もそのことを口にしなかった。

それから数年後、社会人になって地元を離れた。

ある年の正月。
帰省して久々に高校時代の友人と会った。
数人集まって飲むことになり、十年ぶりくらいにある友人と再会した。

夏休み、一緒にキャンプに行ったCだった。

かなり飲んで深夜になり、三人で近くの神社に初詣に行こうとなった。
言いだしたのはCで、大学生の時に交通事故で亡くなったDの話がきっかけだったと思う。

「あの夏、キャンプに行った帰り、Dは事故現場で変な供え物を見た。それは、首のない人形だった」

その時初めて聞いたが、一気に酔いが醒めた。

「俺は何も見なかったけど、Eも人形を見たそうだ。・・・でもEが見たのは、片足のない赤ちゃん人形だった」

深夜のドライブで、運転したEが事故を起こし、Dは即死。
Eは両足骨折だった。
Cは言った。

「俺は実際人形を見てないのに、なんか見たような気がするんだよね。・・・おまえは?」

どう答えていいのか分からなかったので、俯いて黙った。
でも言葉は浮かんでいた。

「その人形、いつか見るような気がする」

終わり。