近所のフェリーはとっくに廃路になったが、俺がそのフェリーの積み込みバイトしてた1年だけでも、3人ぐらいが身投げしてたな。
身投げ事件があると売店の店員が教えてくれるんだ。

やはり靴を揃えて置いてあるのな。
でさ、そのバイトする2年前なんだけど、通学でそのフェリーに載ってたわけ。
そして昼間だけど後部デッキの椅子に座ってた。

俺の他には誰もいない。
後部座席に座りボーっとしていると、視界の端に人影が映って振り向くと誰もいないんだ。
これが何度もあって、それが起こるのは昼間でかつ後部座席に自分だけというシチュエーションの時。
じゃあ「視界に映ったら振り向かずそのままでいよう」と、ある時思った。

すると不思議なことに見えなくなった。
「もう見えないのかな、まあいいや」と諦めかけてた頃、視界の端に人影が見えた。
「えっ」と思ってやはり振り返ってしまうから消えてしまう。
でも分かった。
中年の男だった。

視線を一点に集中し景色を眺める。
すると視界端に人影が来るのが見えた。

「来た!映った!そのまま、そのまま」と言い聞かせる。

すると見えたのは、明らかに中年の女性で白っぽい服が見えた。
でもパッと消えた。
昼間なのにゾッとして客室に戻ろうとしたが、そのままもうちょっと居ようと思い、また視線を景色に一点集中する。

「来た!そのまま、そのまま」
見えたのは作業着のようなカーキ色の服を来た中年の男だった。

でも視界の端からパッと消えてしまう。
本当に気持ち悪いと思って客室に行き、座席に座った。
それ以降、デッキ後部の座席に行くことはやめた。
外の海の空気に当たりたい時も客室横のデッキに居た。

あれから20年以上経過したが、視界の端に人が来て、見たら消えるという現象はあれ以来経験していない。